五十公野公園の植物      観察ガイドマップはこちら


五十公野山は、アカマツを主とする自然林の様相を持つが、近年松食い虫により立ち枯れが多くなり、駆除伐採の整備がなされた。五十公野山には、小ピークを巡るいくつかの遊歩道が設けられていて、身近に自然林の植生に触れることができます。
 また、升潟には、湖水域と沢からの土砂堆積によって形成された湿地域があります。このため、湿性、水生植物の生育もみられます。この湿地帯の一部は、「アヤメ園」(ハナショウブの植栽)として整備されています。
 さらに、この升潟の周辺は、野球場や陸上競技場、キャンプ場などが整備されて多くの市民が利用しています。このような周辺域は、住宅地のような身近な場所(路地、畑地・空き地など)の植物が見られます。
 このように、「五十公野公園」では、市街地に近いところで植物の生活形@湿地環境の植物、A山地環境の植物、B人里環境の植物といった多様な植生に触れることができる場所です。

観察のポイント
・系統分類の上からは異なる植物も、環境と深く結びついてよく似た形、構造、生活の仕方をしているものがあります。このような環境との結びつきによる分類が「生活形」による分類で、こちらのほうが一般的です。

 生活形での分類

(1)木(木本類)の仲間分け
広葉樹 →@常緑広葉樹 (シイ、タブ、カシ、イスノキ、 ツバキ、アオキ、ヤブコウジなど)
        A落葉広葉樹 (ブナ、ホウ、ナラ、サクラ、コブシ、クリ ツツジ、リョウブ、ナツハゼなど)

針葉樹 →B常緑針葉樹 (モミ、ツガ、エゾマツ、マツ、スギなど)
        C落葉針葉樹 (カラマツ、メタセコイア その幼木)

(2)草(草本類)の仲間分け

@長草タイプと広葉タイプ(単子葉の仲間と双子葉の仲間)
A1年生、多年生(宿根草)
B水生植物
・沈水植物(植物体すべてが水中)・・・・・・・・・・・・・・・クロモ、オオカナダモなど、
・浮葉植物(水中に根を広げ、水面に葉を浮かべる)・・ウキクサ、ホテイアオイなど
・挺水植物(根は水底、茎葉は水面より上に)・・・・・・・ハス、ヨシ、コウホネ、セリ、クワイ、イネなど
・湿性植物(根元だけが水に浸る)・・・・・・・・・・・・・・・キショウブ、ミツガシワ、シロネ、ミクリ、ミズバショウなど
                                                                  (3)つる植物
・森林内や森林周囲のマウント群落に多く、他の植物を支えにして生長する。  
@巻きひげで・・・・・・・・・・・・ノブドウ、ヤマイモ、アケビ、フジなど
A棘や鈎で・・・・・・・・・・・・・サルトリイバラ、
B寄生根で・・・・・・・・・・・・・ネナシカヅラ、ツルマサキ、イワガラミ、ツタウルシなど


@人里環境の特徴と植物

・自然状態であれば、森林形成の初期段階で乾燥裸地から草原となっていくべき環境に人間の生活環境が重ってきた。
・長い間生長続ける植物(木本類)がないため、地上茎が開花結実して枯れてしまう草本類が広く分布する。(1年草、2年草、多年草ー宿根草)
・適度な温度、適度な水分、十分な日射など短期生長に適合した環境である。
・乾燥や踏まれなどに耐えて生長している。(踏まれ強い)
・人の生活環境と重なるため、外来種が入り込みやすい。

 人里環境では、人家や道路、側溝の隙間や縁石の隙間などに風で吹き寄せられた種子が定着し、生育したりします。また、裸地、草地などでも種子が引っかかりやすく定着・生育し、しばしば群落をなしていたりします。これらは「雑草」としてよく「草むしり」の対象となって駆除されることが多い植物です。
 隙間育ちの植物や乾燥裸地育ちの生育力はたくましく、オオバコなどは乾燥裸地にヒゲ根を張って踏ん張っています。そのため地面に近い茎のところで切れて、そこからまた新たな茎葉が伸びてきます。アスファルトやコンクリートの狭い隙間に入り込んだものは、主根を深く伸ばすと同時に隙間に合わせて平たい主根になっていたりします。「草むしり」も、こんな観察をしながら取り組んだら楽しくなるのではないでしょうか。

遊歩道Dコースや建物周辺の路地、草地で見られます
スズメノカタビラ、トキワハゼ、セイヨウタンポポヒメオドリコソウオランダミミナグサヒメスイバ、タネツケバナ、マメグンバイナズナ、スギナ、ノボロギクハコベノハラムラサキカタバミニガナスイバギシギシカラスノエンドウハルジョオン、ヒメジオン、ノゲシオニノゲシジシバリ、スベリヒユ、アカザ、オオバコムラサキサギゴケ、トキワハゼ、ヒルガオなど。 

※近年、多く見られるようになった外来種に…コウリンタンポポブタナ、ブタクサ、セイタカアワダチソウハルガヤオオウシノケグサオオアワガエリなどがあります。ハルガヤ(いね科)、ブタナ(きく科)は、すでに公園入り口付近に入り込んでいます。(写真は、カルチャーセンターで撮影)


    


セイヨウタンポポも、交雑種が増えてアカミノタンポポが見られるようになっています。文字通り種子が比較して赤みを帯びていることによります。
外来種のセイヨウタンポポは、年間を通して開花・結実するので勢力は強く、日本のタンポポ(エゾタンポポ)は、絶滅の危機にあります。

A山地環境の特徴と植物

・植物相の形成では、草に優先して樹木類が生長して森林群落が形成されている。(いったん樹木が生長すると草原の上に葉を広げ、光を十分に利用できるようになり草に優先する)
・山地地形から排水機能もよく、余分な水が貯まらない。
・森林構造からもたらされる特殊な自然環境がある。(日射が弱い、放射も弱い。温度変化が小さい。
・空気の移動があまりない。腐葉土層による地表の保水力が高く、湿度が高い等)
・地表から高木層の上まで10m以上の高さまで枝や葉が広がる空間がある。この空間が広いため、上層、下層、地表、地中にわたって動物から利用され、有機物の循環機能が高い。

  大地には、極寒の地を除けば樹木が生育し、地滑りや火山活動など特別な環境変化が起きなければやがては森林ができてきます。身近なところでもそのプロセスの一端を観察することができます。
 地面を削って更地になっている場所を観察していると、最初に生えて広がってくるのが草本類です。そして草っ原になって次に入り込むのが灌木類です。このような草木類が生い茂ると、「藪」(やぶ)になってきます。
 樹木の種子がうまく生長すると、樹木は草原の上に葉を広げ、日光を十分利用できるようになり、草に優占してきます。人間の手が入らない自然の状態では、こうして樹木類が勢力を増して森林が形成されていきます。
 人の生活環境では、整備されるので、せいぜいが「藪」止まりでしょう。草藪は、刈払われても1〜2年もすれば回復してきますが、森林の形成には20年も30年もかかります。したがって山地の環境は、長期にわたっててできた植生環境ということができます。
○山地の植生では、 おおざっぱに高木層ー中低木層ー下草の三層構造になります。


【遊歩道Bコース、Cコース、鵜山コースでみられます


【五十公野山の主な高木類】 ・・・・アカマツ、ヤマザクラ、ウワミズザクラキタコブシホオノキナラの木(コナラ、ミズナラ)、アルバアオダモ
アズキナシ、アオアハダなど。

【五十公野山の主な中低木類】・・・マルバマンサク、ツバキ類(ヤブツバキユキツバキ)、ヒサカキヒメアオキタムシバソヨゴ、ツツジ類、ナナカマド
オオバクロモジ、ハリギリ
ウラジロノキウリハダカエデ、リョウブ、ホツツジキイチゴガマズミムシカリツクバネウゴツクバネウツギなど多種

【五十公野山の主な下草類】・・・・・ノギランナガハシスミレショウジョウバカマチゴユリオオイワカガミ、チマキザサ、ツルアリドオシ、
キバナアキギリ
クルマバソウヤマタツナミソウキバナイカリソウツクバネソウなど。

※山地植物群落の特徴

常緑広葉
・葉の表面にクチクラ層が発達してツヤのある葉をもつため、「照葉樹」とも呼ばれます。
五十公野山
では、ツバキヤブツバキユキツバキ)、ヒメアオキエゾユズリハ、イヌツゲ、ソヨゴなど。

落葉広葉樹
・日本海側、東北地方に多く、秋から冬に葉を落として休眠に入る樹木種です。落葉前に紅葉や黄葉となったり、花の美しい樹木が多くあります。
代表的なものに、サクラ類、ホオノキキタコブシナナカマドマルバアオダモアズキナシ
カエデ類、ツツジ類
など、
・林内もわりあい明るく、林床植物(下草)の種類は豊富で、特に葉が展開する前の早春の林床には、カタクリオオミスミソウ(通称雪割草)キクザキイチゲ
キバナイカリソウ、スミレサイシン、シュンラン
などの花が咲きます。人気のある雪割草(オオミスミソウやスハマソウ)は五十公野山ではみられません。
早春の五十公野山ではショウジョウバカマナガハシスミレキクザキイチゲチゴユリイワナシ(下草といっても木) などが見られます。





B湿地環境の特徴と植物

・水に恵まれ、乾燥への対応を迫られることがない。
・体を支える必要がないため、水草の体は軟弱であるものが多い。
・酸素と二酸化炭素の供給には恵まれない。そのため、茎の中は空気が通れるようになっているものも多い。
・水は光をよく吸収するので、水中は陸上に比べ、はるかに光合成量が稼げない。多くの水中植物はできるだけ水面に顔を出すような適応をしている。水面に出た葉は水を被らないよう、表面に水を弾く仕組みがある。また、葉や茎に浮袋を形成して水面に浮くようになっているものもある。

「升潟」には、池水域と湿地域があります。このような環境を好んで生育するのが「水生植物」です。水生植物も生育の仕方がいろいろあって、次のようになります。

・植物体すべてが水中にある沈水性のもの・・・・・・・・・・・・・・・クロモ、セキショウモ、などは、市街地の用水路中やに見られます。
・水中に根を広げ、水面に葉を浮かべる浮葉植物・・・・・・・ウキクサ、ホテイアオイなど
・根は水底、茎葉は水面より上にある挺水性のもの・・・・・・・ハンノキ、ノイバラ、イソノキ、などの木本、ハス、ヨシ、コウホネセリ(ドクゼリ)ミズバショウ
                                   カサスゲカキツバタサワオグルマキショウブ、ヌマトラノオ、クサレダマ
                                   サワギキョウ、ミツガシワ、ヒメミクリ、ヒメシロネ、ミゾソバ
など
                                    

  

※ 五十公野公園で観察できる植物の写真と詳しい解説は当理科教育センター編集の
五十公野公園遊歩道 植物ガイドブック」を参照してください。